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ドストエフスキー 『貧しき人々』 『地下室の手記』 『永遠の夫』

長編は疲れるので短編を、と思って図書館で借りたのがこれ。集英社の『世界文学全集』43巻(1979年)で、『貧しき人々』は江川卓氏、あとの2作は水野忠夫氏の訳である。文学全集がはやらない今日、出版年が古いのでもう絶版になっているかもしれない。

●『貧しき人々』
貧乏役人(それも年とっている)と向かいに住む不幸な少女の交流を、書簡体を主体に描いた小説。2人は、互いにいたわり、励ましあい、愛を語らうが悲しい結末を迎える、という単純な話だが、「貧しき人々」の生活・心理が惨め極まっていて、読んでいてすごくつらい。本当の貧しさを経験したものの描写である。貧しさのあまり「自分自身への尊敬の気持ちをなくし、・・・何もかも崩れ去って堕落の底に落ちこむ」状況が、実に半端じゃない。ストーリーそのものよりも、貧乏はここまで人を卑屈にしてしまうのか・・・という貧乏描写にかなり気をとられてしまった。最後のシーンでは、主人公の絶叫が聞こえてくるような錯覚に陥った。

この小説でドストさん(当時23歳)は一躍有名になった。原稿を試しに持ち帰った編集者と友人の作家が、夜を徹して読んでしまい、感激のあまり夜明け頃にドストさん宅に押しかけて祝福した・・と解説にある。ドストさん自身、「生涯で最も感激した瞬間」だったそうだ。

●『地下室の手記』
ドストさん42歳の時の作。「わたしは病める人間だ・・・」から始まる。この小説も「貧乏」と無関係ではないが、主題は「人間の本質」になるのだろうか。人の醜さをシニカルな目でこれでもかとえぐり出してくれるので、辟易した気分になりかけると、ドストさんはそういうこちらの心理も見抜いていて更に突いてくるのである。

この小説は前半と後半に分かれるのだが、はじめのほうでは何が何だかよくわからなくてあっさり投げだそうかと思った。しかしながら、読み進めていくうち、センナヤ広場?あたりのじめじめした地下室から時空を超えてビョーキの人間がブツブツ語る言葉に、無視しようにも何故かそうできなくなってしまった。「現代のきちんとした人間は誰しも、臆病者で奴隷であるし、またそうでなければならないものなのだ」なんて言いますから・・・。

読み終えた後、私の惰性ぶりがドストさんに冷笑された気分になり、ああ、参った・・・としみじみ思いました。

●『永遠の夫』
『地下室の手記』がインパクト強すぎて、すぐ後に読んだこの小説はあまり印象に残っていない。ストーリー自体は分かりやすいが、「永遠の夫」役の人物が卑屈でぐじぐじしているので、いらついてしまう。喜悲劇調に語られていて読みやすいとも言えるが、どうも爽やかでない。もっともこの小説だけではないけれど。

各作品、短くともやはりドストエフスキー。それなりに疲れました。
by itsumohappy | 2007-04-09 00:20 | 文学・本
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