2005年末、小説『巨匠とマルガリータ』がロシアで初めてTVドラマ化され、初回視聴率がロシア全土で約50%の新記録達成というニュースがあった。(2006年1月5日東京新聞ほか) 文学好きの国民性を反映しているというのだが、それにしても全10回のシリーズでロシア人の約3分の1が見たというからすごい。興味をひかれたので、原作を借りてきて読んでみた。
ロシア国営TV 「巨匠とマルガリータ」 (巨匠:アレクサンドル・ガリビン、 マルガリータ:アンナ・コヴァルチュク 巨匠はちょっとおやじすぎるような・・。) なんというか、今までこんな小説は読んだことがない。「感動」などという言葉では軽すぎる。読んでいて、ああ、終わらないでほしいと思う本が他にどれだけあっただろう。 正直、はじめ本のボリュームを見て、ドストエフスキー式の長大で小難しい話だったらとても最後まで読みきれないな、と思った。(杞憂だったが) 首の切断。悪魔一味の黒魔術ショー。人々の失踪。亡者の舞踏会。平行して2000年の時を飛んで描かれるポンテオ・ピラトの苦悩。いろんな話が交錯し、かなり読み進んでも巨匠もマルガリータもなかなか登場しないし、ロシア人の名前はややこしいしで、一体この小説はどうなっていくのだろう?と不安に思いつつも話の面白さに引き込まれていく感じだった。 この本はSFファンタジー&ラブロマンス&喜劇&悲劇の形をとった体制批判と読むべきなのか?ロシア文学の伝統、弱い男と強い女のストーリーでもある。一口では言い表せない。へんてこな登場人物(動物)に笑わせられるが、小説としての面白さの後ろ側にあるものは実に深い。伏線があちこち張られていてさらーっと読んでいると見落としてしまう。(何度も前のページに戻りつつ読んだ) 1回読んだ位では読みきれていない。 悪魔のせりふ「原稿は燃えないものです」や巨匠のせりふ「お前は自由だ!」に込められた作者の思い。それは、精神の自由は永遠、ということなのであろう。 作者ミハイル・ブルガーコフ(1891-1940)は、『白衛軍』(1925)という小説で作家の地位を確立したそうだが、その後小説や戯曲の中での体制批判のため当局から圧殺され、作品発表の機会を奪われた。粛清されなかったのは、スターリンが『白衛軍』の舞台版のファンだったからという説がある。亡命も許されず、孤独に死んだ。 『巨匠とマルガリータ』は29年から死去直前まで書かれ、原稿は夫人によって保管されていた。不完全ながらもソ連国内で出版されたのは66年、完全版の出版は73年とのこと。やはりロシア人にとってこの小説は特別なものであるのはわかるような気がする。 私が読んだのは集英社版だが、群像社版(悪魔の逃走地図付きらしい)も見ようと思ってかなり大きな書店を何軒かまわったが双方の版ともどこにもない。残念なことだ。 ********** ストーンズのアルバム「ベガーズ・バンケット」(1968年)にある「悪魔を憐れむ歌」は、『巨匠とマルガリータ』をヒントに作られたもの。
by itsumohappy
| 2006-02-14 00:52
| 文学・本
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