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2010年 02月 28日

ソルジェニーツィン 『ガン病棟』

d0007923_1761171.jpgアレクサンドル・ソルジェニーツィン(1918-2008)の代表作のひとつ。8年間のラーゲリ生活の後、カザフスタンに追放された著者は、追放生活の間、悪性腫瘍を患ってウズベクスタンの首都タシケントの病院で治療を受けた。その経験を基に67年に完成したのが『ガン病棟』であるが、ソ連国内の雑誌への掲載は拒絶され、海外で出版された。同書は、ソヴィエト体制が崩壊するまで『煉獄のなかで』と同様、発禁の扱いであった。

タイトルどおり、ガン病棟における患者や医者たちの人間模様の話である。このタイトルでは、あまり進んで手に取る気になれないし、実際楽しい内容でもないが、本当に面白い本を読みたいときに最適だと思う。



どうして運命はこんなに不公平なのだろう。どうして、ある人間は一生涯、平穏無事に生きつづけ、ある人間は何から何までうまくいかないのだろう。それなのに人の運命はその本人次第だなどという。絶対にそんなことはない。(上巻186頁)

『ガン病棟』の時代設定は1955年で、舞台はタシケントの病院。ガン患者たちが、死をどう迎えるのか、人は何によって生きるのかを論じ合う。理不尽な病は老若男女の別なく、そして時には医者をも襲う。「死」或いは「生」にいかに向き合うかという問題は、国や時代をこえた普遍のテーマである。


「若いなんてとんでもない!・・・見かけがまだ子供っぽいということですか」
「・・・きみは嘘をつくことが少なくてすんだ。・・・屈服することが少なくてすんだ。・・・きみは判決を受けたが、私らは読みあげられる判決に拍手喝采することをやらされたのだ。」(下巻207頁)


難病の苦しみに加えて、著者が、患者達のエピソードを通じてえぐり出したのはスターリン体制下で痛めつけられた人々の悲痛な叫び。病棟では、特権階級の小官僚や反体制的とされ服役した流刑囚ら様々な階層の者たちが、単なるガン患者として一時的に平等な立場で日々過ごす。 スターリン死去とベリヤ銃殺(53年)、マレンコフ辞任(55年)、スターリン批判(56年)といった時代の移り変わりに対する彼らの反応が、当然ながらリアリティーに富んでいる。

分量もほどほど(上・下巻)であり、会話の場面が多いせいか文も自然体なので、大テロルなどスターリン時代の出来事をある程度おさえた上で読めば、中学生でもそこそこ理解できる小説だと思う。
当ブログ記事ソルジェニーツィン 『収容所群島 1918-1956文学的考察』もご参照下さい。


d0007923_1781049.jpg『ガン病棟』で言及されている、ガンに効能があるという「チャーガ」(白樺に寄生するキノコ;右)
小説の、チャーガを研究する「マースレニコフ博士」は実在の人物。

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by itsumohappy | 2010-02-28 17:13 | 文学・本 | Trackback | Comments(0)