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2008年 08月 28日

映画 『12人の怒れる男』

ニキータ・ミハルコフ監督作品の感想です。原題『12』。160分。

d0007923_22434535.jpg法廷ドラマの名作『十二人の怒れる男』(シドニー・ルメット監督デビュー作品;1957年米国)のリメイク。リメイクというとどうも安直なイメージが先立つ。オリジナルを超えるリメイクなどあまりない気がするし。迫力あるおじさんたちが居並ぶチラシを見ると何だか疲れそうな映画にもみえる。映画館で、前回の上映が終わって出てくる人たちが、話もせず一様に硬い表情だったので、どんなものかなぁ?とあまり期待しなかったのだが、重厚で、心にずっしり響く作品だった。

配給会社が、来年始まる裁判員制度と絡めて宣伝しているため、この映画は、ルメット作品と同じく正義を導こうとする陪審員のドラマ、という印象を持つ。たしかにスタイルは本歌どおりだが、陪審員の審議の中でミハルコフ監督があぶりだしたのは、ロシア人及び現代ロシア社会の抱える諸問題。それらをヒューマニズムとエゴイズムのドラマの軸と平行して描いた。審議の終了で話が終わるのではなく、新たな始まりがあるという展開が面白い。なので、RemakeというよりReborn作品だ。

最初はやる気がなくて早く帰りたい陪審員らが、徐々に自分たち自身について語りだす。一見何気ないせりふのひとつひとつの裏に、痛烈な批判が込められている。「テロリスト」となったおじさんのエピソードからは、チェチェン問題に対する監督の見解も伺えるように思う。

d0007923_22441189.jpgこの映画のサイトによれば、監督は審議の部分の綿密なリハーサルを行った後に、順撮りで撮影したそうだ。チェチェンのシーンは、クラスノダール地方(北カフカス)でセットを組んで撮られた。黒澤明作品へのオマージュと思しき場面もある。

ルメット作品を観ていない方は、このミハルコフ作品のあとで観るとよいでしょう。話を予測しないまま鑑賞するほうが面白いですから。ル作品を観ていても十分楽しめます。
東京に続き、京阪地区ほか各地で公開予定。
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by itsumohappy | 2008-08-28 22:50 | 映画 | Trackback | Comments(4)
2008年 08月 26日

常岡浩介 『ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記』、廣瀬陽子 『コーカサス 国際関係の十字路』

コーカサス、チェチェン問題を扱った両書について。ともに2008年7月の出版です。

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『ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記』 (アスキー新書71)

d0007923_22385454.jpg常岡氏はフリージャーナリストで、1999年からチェチェン及び周辺地域を取材している。イスラム教に改宗し、2001年、「聖戦士」(チェチェン独立派が自らを指すときの呼称)たちの、パンキシ渓谷からアブハジアへの侵入作戦に参加した。コドリ渓谷(アブハジアとグルジアの間で衝突が頻発している地域)でロシア軍の追撃を受けた経験などチェチェン戦争の一端を記している。
取材の中で、「チェチェン戦争に対し中立を宣言しているグルジアが、秘密裏にチェチェン独立派を軍事支援しつつ、その軍事力を自国の国益に利用しようとしている事実」を確認し、グルジア当局に抹殺されかけた。 

400年前からほぼ半世紀ごとに戦争が繰り返されてきたチェチェンでは、この14年間に人口の4分の1に相当する約25万人が死亡し、20万人が難民となった。ロシア言うところの「対テロ戦争」における「想像を絶する残虐さ」についてあまり知られていないのは、ロシア当局の徹底した情報統制のため。現地では今でも山岳部でゲリラの抵抗、戦闘が続いているらしい。

ひとくちに「チェチェン独立派」と言っても実態は多種多様、との解説があるが、ロシア政府にとっては一律「テロリスト」。著者によれば、チェチェンの指導者に直接取材をした者は、ロシアから法的に犯罪者として扱われるらしい(実際著者はFSB<連邦保安庁;もとのKGB>に拘束されている)。そのため、チェチェン側を中心に取材せざるをえず、中立の目線ではないとの断りがある。

1人倒れれば次の10人が立ち上がるという不屈の精神を持つカフカス(コーカサス)の聖戦士らは、今や抵抗自体に意味を見出しつつあるそうだ。おそらく著者が本書で最も訴えたかったのは、「カフカスという地域でこういう人が生き、死んでいった」という「現代の見捨てられた悲劇」に、日常、民族紛争とは無縁に暮らす日本人は多少なりとも思いを馳せて欲しいということであろう。

06年11月にポロニウム中毒死した元FSB中佐リトビネンコ氏へのインタビューつき。FSBの違法な工作活動などが語られている。


『コーカサス 国際関係の十字路』 (集英社新書452A)

d0007923_22421839.jpg廣瀬氏は静岡県立大学准教授(国際政治)。
本書は、コーカサス地域における紛争と民族問題に関する概説本である。大国の様々な利害・思惑が交錯するこの地域に関する全てをコンパクトに解説するのは困難、とある。確かにそうだろうが、南オセチアをめぐるグルジアとロシアの紛争の報道が続く今日、コーカサスにおける問題点、着目すべき点をおおまかに知るには適切な本だと思う。

常岡氏も言及している、「コーカサス地域の国境線は実際の民族分布と異なる」「9.11テロ以降、ロシアはチェチェン紛争を「テロとの戦い」と位置づけた」という点などがまず押えるべき基本認識だろうか。

本書によれば、コーカサスにおける分離独立紛争の始まりは、ソ連の崩壊に伴う民族主義の台頭による。現在、ロシアは、民族自決の原則を南コーカサス(アゼルバイジャン、グルジア、アルメニア)の未承認国家に適用し、分離派を支援することで紛争に間接関与している。一方、北コーカサス(チェチェン、ダゲスタン、イングーシ、北オセチア。これらはロシア連邦を構成する共和国である)では、ロシアは紛争の当事者である。

コーカサスの歴史、民族、宗教、言語等、地域の概観から天然ガス・石油等の資源や地域の安全保障をめぐるコーカサス周辺国・米・露・西欧諸国それぞれの利害まで、幅広く触れられている。
06年5月に開通した、アゼルバイジャンからグルジアを経てトルコに至る「BTCパイプライン」の説明も比較的丁寧だと思う。

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グルジア一国にしても「長寿村」「スターリン」位しかイメージがわかない私にとって、コーカサス問題はよくわからない。報道のほか、上記のような現地を見た人たちによる著作や体験談等を通じて、あれこれ考えるしかなさそうです。
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by itsumohappy | 2008-08-26 23:12 | 文学・本 | Trackback | Comments(4)
2008年 08月 21日

ロシア・グルジアの軍事衝突 

8月8日、北京オリンピック開会式の日に起きたロシアとグルジアの大規模な軍事衝突。めまぐるしく変化する情勢が連日伝えられている。13日、フランスの仲介により両国は、武力不行使、戦闘停止などの「和平6原則」に基本的に合意した。21日の報道(時事通信)によると、フランスの提示した停戦順守を求める国連安全保障理事会決議案をロシアは拒否し、先の「6原則」(「グルジアの領土保全」に言及していない)をそのままフランス案への対案とした。

d0007923_17274399.jpg8月20日、マチャワリアニ駐日グルジア大使が『南オセチアを巡るロシア・グルジア両軍の軍事衝突の行方と平和解決の道』と題して東京・赤坂で講演(といっても在京メディア各社との質疑が主体)を行い、グルジアサイドの公式見解を示された。質問によってはストレートな回答がない(できない)場面もあり、また、語られない事実も多々あると思われるが、行ってきましたので概要を紹介します。
(写真:日本財団


●南オセチアの分離派が先に攻撃した
グルジアは、分離派勢力の攻撃に反応したのであって、グルジアが軍事攻撃を始めたのではない。今年の3月から、ロシアによるアブハジア、南オセチアへの軍備増強が行われていた。8月6日以前に、(*グルジアが南オセチアのツヒンバリを攻撃したのは7日)グルジアは、米国との情報活動により、ロシア軍が南北オセチアをつなぐトンネルを(南に)進んでいるという情報を得ていた。

●今回の軍事衝突は「テスト・ケース」
ロシアが、グルジアの民主化を阻止し攻撃的態度に出たのは、西欧社会、NATOの反応を見定めるため。ロシアは、西欧への対抗意識から意に沿わない周辺国の民主化を邪魔する。グルジアの次はウクライナに、その次にはアゼルバイジャンに干渉(進撃)するかもしれない。(*これらの国はNATOとの関係強化に積極的である)

●ロシアは平和維持の努力を反故にし、グルジア政府の転覆を図った
グルジア国内での分離派との対立は以前からあったことであり、今回のロシアの反応(グルジア侵攻)は予期しなかった。過去16年にわたり、(国連や欧州安全保障協力機構を通じた)平和維持活動が継続されていた。グルジアは軍事的な解決を求めていない。今後は、国際的な監視体制にロシアは関わらないでほしい。(*ロシアはグルジア国内の分離派地域に「平和維持部隊」を送り込んでいる)

●ロシアは敵
ロシア政府の指導力を握っているのはKGB(現FSB)である。チェチェンで、ベスラン(*学校占拠事件が起きた北オセチアの都市)で、多くの市民が殺害された。グルジアは、(ロシアと違って)西欧、国連のスタンダードに立ち少数派の権利を守る。

●コソボは特殊な事例
グルジアの領土保全は疑問の余地がない。コソボでは、住民の大半が同地に留まり、国民投票でセルビアからの独立を支持した。(住民の意思が反映されたコソボと異なって)アブハジア、南オセチアではかつての3分の1しか住民が残っていない。ロシアは彼らにパスポートを与え、領土併合の機をうかがっている。

●20日現在の犠牲者数について
現在、状況を把握することが非常に困難なため不明。避難民が12万人以上いるとしか言えない。ロシアはグルジアの東西輸送道路を閉鎖したので、食料も運べない状態だ。

●日本の更なる支援を期待

日本政府はここ2年間グルジアを支援している。ロシアによる主権国家への侵略を米・EUとともに止めることを願う。復興プロジェクトにも期待している。日本の人々には、グルジアに対する関心を持ち続けてほしい。

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大使は、冷静な語り口ながらロシアの横暴許すまじという姿勢をあらわにしておられた。
今後は、8月22日までに撤退するとしたロシアの約束がどこまで守られるかが注目されるところでしょうか。

【追記】
・8月29日、グルジアはロシアとの外交関係を断絶することを発表。国際機関の努力による事態収拾は困難になったと伝えられている。
・これまでの報道によれば、南オセチアが先に攻撃したという記事は見当たらない。ロシア部隊の動きにグルジアが煽られた(ロシアに挑発された)という見解が多い。
・8月28日のCNNの報道によれば、プーチン首相は「米国陰謀説」を唱えている。
・スラブ研究センター研究員の見解はこちら

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by itsumohappy | 2008-08-21 22:48 | ロシア | Trackback | Comments(2)