ボリショイ・バレエ「スパルタクス」の感想です。(1月31日/東京文化会館)
![]() 【出演】 スパルタクス:イワン・ワシーリエフ フリーギア:スヴェトラーナ・ルンキナ クラッスス:アレクサンドル・ヴォルチコフ エギナ:エカテリーナ・シプーリナ ボリショイ劇場管弦楽団/指揮 パーヴェル・ソローキン 音楽:アラム・ハチャトゥリアン 6年間の修復を終え、新装なったばかりのボリショイ劇場が引越し公演(1月27日~2月12日)。地震と放射能を心配していたと思うが、よくぞ来日した。都内の初日は、「スパルタクス」。古代ローマの剣奴の反乱(紀元前73-71年)を題材に、ユーリ・グリゴローヴィチが振付したバレエで、1968年初演された。 この演目のパリ公演(2008年)をたまたま録画で見ていたが(スパルタクスを客演したカルロス・アコスタが印象的だった)、実際観られる機会が少なそうなこともあって、先週チケットを購入。平日夜でも劇場の9割近くが埋まっていた。ワシーリエフがミハイロフスキー劇場に移籍したけれども、予定通りのキャスティングで行われた。 この作品は、ダイナミックな音楽にのって力強さでおしまくる勇壮な「男性バレエ」で、衣装も派手ではない。言うなれば、バレエという感じのしないバレエ。炸裂する管弦楽はやはり生の舞台ならでは。 主演のワシーリエフはわりと小柄で、どんなスパルタクスかと思いきや、ゴム鞠のごとくかなりの気合で最初から最後まで飛び跳ね、かつ、スピーディなー切れのよさを披露して喝采を浴びていた。 ![]() シプーリナのエギナも濃いキャラクターのせいか心に残る演技だった。対して、ルンキナのはかなさはややわりを食う感じになった(そういう役柄なので仕方がない)。 半ばでヴォルチコフの着地が失敗し、その後、やや足を引きずったのでどうなることか心配だったが、後半は無事に踊りきった。あと、兵隊さんの数がもう少し多いとより迫力が増しただろう。 前回来日時よりずっと円高のはずだが、チケットの価格帯は変わらない印象である。もう少し何とかならないものだろうか。 ![]() 改装されたボリショイ劇場のメインロビー ボリショイ・バレエ「ドン・キホーテ」の感想です。(12月3日/東京文化会館)2007年9月のマリインスキー・バレエ&ボリショイ・バレエ合同ガラ公演で、ドン・キホーテ/第3幕のパ・ド・ドゥにマリーヤ・アレクサンドロワ(キトリ)とセルゲイ・フィーリン(バジル)が登場し、アレクサンドロワのかっこ良さが大変印象に残ったので、同じキャスティングであったボリショイ公演を売り出し同時に買った。その後、2回の配役変更で、バジルはドミトリー・ペロゴロフツェフになったが・・・。アレクサンドロワが予定通り出演してよかった。そもそも平日公演で行かれるか心配だったけれども無事鑑賞できた。 開演前に、年内でボリショイを退任するラトマンスキー芸術監督からお話が少々。王子王女ものでなく、民衆が主体の「ドン・キホーテ」は、(帝都であったペテルブルクよりも)モスクワで人気の演目らしい。150年間ロシアで踊り続けられ、ボリショイでは「モスクワ・スタイル」ともいうべきダイナミックな踊りが見どころ。振付をしたプティパは、「ドン・キホーテ」に出演するためにロシアにやってきたそうだ。 アレクサンドロワ。第一幕より(Photo: Alexandra Kocitsina) ![]() 2幕目の優美な夢のシーン、きれいでした。 踊りがよくついていけるなぁと感じるほど音楽がスピーディー。闘牛士たちのシーンではマントをハイスピードでそろってくるくる回す。闘牛士の筆頭?を演じていた端正なアンドレイ・メルクーリエフ、ロマの踊りを情熱的に踊ったアンナ・アントロポーワが印象に残った。とはいえ、どの出演者も実にたいしたものです。 楽団も合わせ大勢の所帯のせいか料金もそれなり。他の演目までなかなか手が出ない。 日本初演の「明るい小川」はどんな感じだろう。 今年3月に開館した赤坂ACTシアターのオープニングシリーズのひとつ、チェーホフの『かもめ』に藤原竜也らが出演。7月10日夜公演(東京・赤坂ACTシアター)の感想です。
![]() 栗山民也氏の演出は手堅い。原作どおり丁寧に展開していて安心と言えば安心である。しかし、21世紀のきょうび、『かもめ』を新劇場で大々的にやるからには、何か斬新なところが欲しいと感じた。 沼野充義氏の翻訳には今世紀の言葉が混じるのだが、唐突にそれらをせりふに入れても、設定は19世紀ロシアのままであるから、違和感が出るだけである。重厚な古典的演出とも言い切れないし、どの演者もそれなりによかったので、一種中途半端さが少々もったいない気がした。簡素な舞台装置、衣装ですむこの劇に、お金をかけるとすればキャスティングなのだろうか。 トレープレフ、ニーナ、マーシャは、はりきっています!という感じの、若さあふれる全力投球演技。それはそれでよいと思う。トレープレフ、ニーナは、早口になるとせりふが聞き取りにくかった。そこいくとアルカージナ、トリゴーリンの演技はさすがで、緩急、間合い、笑いの取り方も自在である。 『かもめ』では、見果てぬ夢、かなわなかった夢、あきらめの人生、あきらめない人生等の様相が描かれている。10代の人も多く見受けられた公演だが、原作を読まずに観た場合、そのようなチェーホフの世界を、彼らがどう感じたか聞いてみたいものだ。 東京公演は終了。7月18日から大阪、その後8月上旬にかけて広島、愛知で上演されます。 ************ 【キャスト】 トレープレフ・・・藤原竜也 トリゴーリン・・・鹿賀丈史 ニーナ ・・・美波 マーシャ ・・・小島聖 アルカージナ・・・麻実れい ドールン ・・・中嶋しゅう シャムラーエフ・・・藤木孝 ポリーナ ・・・藤田弓子 メドヴェジェンコ・・・たかお鷹 ソーリン ・・・勝部演之 ロシアのウラジオストク青年劇場(青年ドラマ劇場)が来日し、東京でチェーホフの「かもめ」(5月12日~14日)を、岩手県で日本の民話を基にした芝居「うたよみざる」(16、17日)を上演した。13日、「かもめ」を観に行った。 劇場のシアターX(両国)ははじめてだったが小規模な空間で、演劇をじっくり鑑賞するのにふさわしい雰囲気だった。俳優の演技をじかに感じてもらえるように字幕、イヤホンガイドを使わないという主催者のコンセプトで、せりふは全てロシア語。原題は「ほら、これがおまえの劇場だ」(Вот тебе и театр)。4幕の「かもめ」を作家2人と女優2人の2幕の物語に構成していて、従って登場人物は4人だけ。 舞台装置は、天井から丸ワイヤーに薄い白布が4、5枚くらいに分けて長いカーテンみたいに(カーテンが全部閉じられると白い円筒みたいになる)下げられた台、つまりトレープレフの「劇場」が真ん中に置かれただけの簡素なもの。 開場して、どこに座ったらよいか迷っていたら、劇場の係の方から前のほうを勧められ、ロシア語もわからないのにずうずうしくも一番前の真ん中に座ってしまった。 ストーリーは日本語で読んでいたので、ああ、あそこの場面、あそこのせりふだなぁと見当はだいたいついたが、はじめは慣れなくてしばらく落ちつかなかった。観ているうちにだんだん俳優の表情やせりふ回し(意味はわからないけど)の妙を楽しむことができた。衣装も白を基調としていて全体に品のある舞台だった。 アルカージナは(尊大な)大女優らしく、ニーナは世間知らずの純情な女優志願らしく(都会に出る前だが)。トレープレフは、パンフレットに「今日風に言えばニート」なんてあってなるほどと思ったが、才能への迷いと嫉妬が伝わってきたし、トリゴーリンはまるでチェーホフがもう少し長生きしたらあんな感じかも?と思うような、優しい、しかし人生をよく知っている(世知にたけた)という雰囲気だった。 音楽は、映画「ゴッドファーザー」で使われたものが流れていた。もの悲しいメロディーが劇のイメージには合っていたが、映画のほうをつい想起してしまった。ゴッドファーザーも一種の家族劇だからってことで使用したわけでもないと思うが・・・。 チェーホフは「かもめ」を「喜劇」としている。私には喜劇と感じるまで達観できないので、せめて喜悲劇かなぁと思ったりする。 ウラジオストク青年劇場は、青少年のためのドラマの劇場として1954年に創設され、古典演劇をはじめ、現代演劇、音楽劇などレパートリーが300あり、「かもめ」は、人気レパートリーの1つとのこと(2006年5月11日 毎日新聞)。 今回はたまたまブローグニックさんの紹介で観に行くことができたが、大規模でない演劇公演の情報は外国のものであれ日本のものであれ注意していないと気がつきにくいものだ。 ******* 「かもめ」 企画:ウラジオストク青年劇場 芸術監督:ビクトル・ガルキン 出演: アルカージナ:ガリーナ・コプィロワ(功労俳優) トリゴーリン:アレクサンドル・ヴォロシャンコ(功労俳優) ニーナ:ポステルナック・ラリーサ トレープレフ:アンドレイ・トロフィーモフ ロシアには、功労俳優とか功労芸術家とか国が優れた芸術家を認定する制度があるようだ。 ******* ウラジオストクは、札幌市とほぼ同緯度で、1860年に海軍基地として建設された。1890年には沿海州の州都となるなど、ロシア・ソ連の太平洋への玄関口として発展。1952年、軍事上の理由で閉鎖都市となったが、1989年にソ連市民に、1992年に外国人に開放された。 ウラジオストクの名称は、1860年、同地に派遣されたロシア軍に、皇帝が「ヴラジェイ・ヴォストーカム」(「東方諸地域を支配せよ」)と命じたことに由来するという説が有力。 人口は、約61万人(2005年1月現在)で、住民の大多数はロシア人。極東地域最大の都市であるが人口流出が続いており、92年以降、年率約1%の割合で減少している。 1907年(明治40年)に日本領事館が設置された。明治のはじめから日本人が移民しており、1920年代初頭には6000人近くの日本人が居留していたと言われている。 敦賀~ウラジオストク間の連絡船とシベリア鉄道を乗り継いで欧州に向かうルートは、当時の日欧連絡の最速ルートの一つだった。 ウラジオストクは、新潟、富山、大阪から飛行機で2時間弱。富山からは船「ルーシ号」が出ている。新潟市、函館市、秋田市と姉妹都市。 市民の日本への関心は高く、日本総領事館が行っている文化行事は常に盛況らしい。 (在ウラジオストク総領事館のHPより) ユーゴザーパド劇場は、演出家のワレリー・ベリャコーヴィッチ氏が77年に作ったモスクワ市南西(ユーゴザーパド)の労働者街にある120席位の劇場。モスクワ中心部から地下鉄で30分位かかるらしいが、連日盛況の人気劇場だそうだ。この劇団の3度目の来日公演が、ロシア文化フェスティバルの一環として天王洲アートスフィアで行われた。(マクベス/巨匠とマルガリータ 3月21日~26日)22日、劇団の代表作のひとつ「巨匠とマルガリータ」の公演を観た。 長大な原作なので舞台も3時間強の大作である。あの話を一体どう舞台化したのか興味があった。アイデア勝負というか期待どおりの斬新な演出だったと思う。悪魔の舞踏会のシーンは、トタンをがんがんいわせて半裸の人が踊り狂い、なるほどそれらしくうまいものだった。 ![]() 舞台装置は、最初から最後までトタンが8枚ぶら下がっているだけ。世界のあちら側とこちら側を区切る結界的役割で、要所要所で役者はトタンをめくるように飛び出たり引っ込んだりする。動きが激しいときなどトタンの端で怪我しないだろうかと心配してしまった。 ベリャコーヴィッチ(左)自身が悪魔の親玉。優しい目をした知的で可愛げなおじさんなので、哲学的でも親しみやすい悪魔だった。手下の悪魔達やヨシュア、ピラトをはじめエルサレムの人々、詩人、そして巨匠とどれもだいたいイメージどおりだったが、若干違和感あったのは肝心のマルガリータ。ロシア人がイメージするマルガリータってあんな感じなのだろうか。野太い声というかどすのきいたような低音で、本当に魔女のようだった。昔の映画「サンセット大通り」のG・スワンソンを思い出した。巨匠がもともと弱いキャラクターなので、マルガリータの一種あくの強さが際立っていた。(写真はアートスフィアの公演HPより) ベリャコーヴィッチは、「強力な悪の誘惑に負けず、誠実な人間でいるには悪の本質を知る必要がある。そのことを劇から感じてほしい」と語っている。(3月13日 朝日新聞) 原作者ブルガーコフは「悪が存在しなければ善はどうなる?」と問うた。悪を知れ、というメッセージは、今の日本社会では実に示唆に富んだものだと思う。 ************ ロシアではプロの俳優は演劇大学で養成されるシステムらしく、ベリャコーヴィッチ自身もロシアで最難関の国立演劇大学で学んだ。卒業後、地元で劇団を旗揚げした。ここの劇団員のバックグラウンドはいろいろで、伝統的なロシアの劇団とは異質である。ペレストロイカ時代、エジンバラ演劇祭で上演した「ハムレット」をきっかけに世界に知られるようになった。 ユーゴザーパドでは、「演劇はカーニバル」というベリャコーヴィッチのもと30位のレパートリーを上演している。スケジュールを見ると毎日出し物が違う。「ハムレット」、「ロミオとジュリエット」などシェークスピアの作品、「検察官」、「どん底」などロシア古典ものほかいろんなタイプの作品を同じ月にやっている。 アートスフィアはユーゴザーパドの公演を最後に閉館し、改装後ホリプロの劇場になるそうだ。 < 前のページ次のページ >
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