アレクサンドル・ニコラエヴィッチ・ソクーロフ監督の最新作。原題『アレクサンドラ』。
往年のソプラノ歌手、ガリーナ・ヴィシネフスカヤ(1926~)がタイトルロールを演じている。2004年、戦下のチェチェンの首都グローズヌイなどでロケが行われた。 物語は、アレクサンドラ・ニコラエヴナ(ソクーロフ監督の名前の女性形になる)が、カフカスのロシア軍駐屯地で活動する将校である孫に会いに行き、駐屯地(本物だそうだ)の兵士や周辺の地域住民と触れ合うというシンプルなもの。映画では「カフカスでの長い戦争」という言葉や破壊し尽くされた建物で、チェチェンが舞台であることを示唆している。戦闘を暗示するシーンがちらっと出てくるだけで、武器を実際に使っている場面はない。砂ぼこりの絶えない駐屯地で、劣悪とも言える汚いテント生活を送り、掃討作戦に携わるまだあどけない顔の兵士たちを見たらどう感じるか。街を破壊したロシア兵たちを地元民はどのように思っているか。アレクサンドラは、周辺をよたよたと歩き回りながら観察する。映画は、普通の人が自然に持つであろう感情を表現していて、反戦を声高に訴えるといった政治的な意図はあまり感じられない。 場面に余計な説明はなく、観客の想像に委ねている部分も多い。アレクサンドラは、たった2日間の滞在ではごく表層的なものにしか気づいておらず、日々戦闘に従事して、人もおそらく殺し、明日の命も知れない孫や、親しくなったロシア語の堪能な優しいチェチェン人女性の複雑な気持ちまで理解しきれていないのでは、と思わせる。 ソクーロフ監督は、『アレクサンドラ』を制作した理由を「単純な話は普遍的であり、誰にでも起きることだから」とし、「舞台がイラクでも通じる」と語っている。この映画は、プーチン大統領(当時)のお気に召さず、当局の嫌がらせによりロシアの上映館では、公開時十名弱の観客しか集まらなかったそうだ。 画面の色が意図的なのかかなり茶色く褪せていて、暑苦しさが伝わってくるよう。ところどころにうっすらとヴィシネフスカヤの1940年代の歌声が流れる。 現在、ユーロスペース(東京)で公開中。順次全国公開の予定。 ガリーナ・ヴィシネフスカヤ。右は夫の故ロストロポーヴィチと
by itsumohappy
| 2009-01-18 22:42
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