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2008年 07月 25日

大泰司紀之他 『知床・北方四島 カラー版-流氷が育む自然遺産』

岩波新書『知床・北方四島』の紹介と四島周辺の生態系保護について。

d0007923_21544329.jpg本書は、大泰司氏(北大研究員)と本間浩氏(毎日新聞記者)の共著。北海道東部と一体の生態系をなす北方四島の豊かな自然を、豊富なカラー写真を交えて解説している。

1998年7月に始まった、北方四島へのビザなし渡航の「専門家交流」(自然科学、農業、教育、医療等の分野での研修や調査活動)の中で得られた、四島での生態系調査の結果をふまえ、美しい自然を日露合同で守る方策を提言する書でもある。環境保護という一般になじみ易い視点から領土問題を考えることもできる。

四島周辺には、クジラ、アザラシ類、熊、鳥類、魚類が多く集まり、オーストラリアやニュージーランドからも海鳥がやって来るそうだ。この豊かな生態系を最下層で支えるのは、オホーツクより来る流氷から溶け出す栄養分で発生する大量のプランクトンである。また、島々の植物の種類も豊富で、色丹島だけでも700種の高山植物がある。

シマフクロウとエトピリカ
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ソ連時代は、四島周辺の自然が手つかずのまま保たれていた。しかし、ソ連崩壊の混乱で密漁が始まり、ロシア時代になってからは、日本市場向けにウニ、カニ、スケトウダラなどが乱獲された。水産資源の枯渇をおそれたプーチン前政権は、極東海域での密漁取締りを強化した。08年3月、根室の花咲港での活ガニの輸入量が16年ぶりにゼロ、ウニが2割減となったのはその影響と見られている。

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カニかご。かごに落ちると出られない。漁具の進歩も乱獲に拍車がかかる。密漁者を捕まえても海に残されたかごの中でカニは共食いし、死臭でさらにカニが来る。カニを永遠に捕り続ける「ゴーストフィッシング」となる(写真:『北海道の漁業図鑑』)



現在ロシア政府が進めている「クリル社会経済発展計画」(07~15年の期間に179億ルーブル(約800億円)をクリルの社会基盤整備や資源探査に投入するもの)に基づく事業も自然破壊を招くと懸念されている。この計画の一環で、国後島では金鉱の開発が始まった。住民には、環境保護より豊かな生活を望む声が強く、自然保護区の職員は孤立しがちであると伝えられている。
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本書は、知床の世界自然遺産の範囲をウルップ島まで拡張し、日露共同で環境保護に取り組むことを提案している。世界遺産条約は、領土問題の未解決な係争地でも、当事国が共同歩調をとれば登録や拡張が可能らしい。日本が知床から四島までを、ロシアがウルップ島から四島までを登録申請する。生態系が同一であるウルップ島を含めることで日露双方の立場を害さない。これは、日露の研究者同士の交流のなかで考え出された案である。かつて、90年代後半、日露のNGOが協力して始めた、ウルップ島と四島の自然保護区を世界自然遺産に登録する運動にサハリン州政府は同意したが、係争地であることを理由にロシア中央政府は却下したという経緯がある。

一方、日本政府は、ロシアが北方四島を不法占拠している現状では、ロシアと共同で四島を含む地域を世界遺産として推薦することは、北方領土問題に関する日本の立場とは相容れない、としている。
しかしながら、共同で生態系保護を行う必要性では日露は一致しており、先だっての洞爺湖サミットの際行われた日露首脳会談において、「日露の隣接地域における生態系保全に関する政府間協力プログラム」を具体的に進めていくことが確認された。

【参考】
2000年8月21日毎日、03年8月24日読売、05年10月12日読売、08年4月30日北海道新聞、06年10月31日『世界週報』、08年4月1日「知床における世界自然遺産区域を北方領土まで拡張させる構想に対する政府の見解に関する質問に対する答弁書」、外務省のサイト
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by itsumohappy | 2008-07-25 22:16 | 文学・本 | Trackback | Comments(2)
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Commented by cccpcamera at 2008-07-29 10:35 x
 この本、読みました。自然保護の観点から見た場合、北方領土をこのまま放置しておいて良いのだろうか、そういう視点が重要ではないとは思わないのだけれど。でも、日露共同して自然保護に取り組むのだとしたならば、同時に、日露共同して開発に取り組むことになり、北方四島周辺海域も、根室半島周辺海域並みの自然環境になってしまうのではないだろうか。自然保護の観点から北方領土問題を考えると、複雑な気持ちになります。
 色丹島は植物が豊富そうですね。先日、尾瀬ハイキングをしたら、シコタンキンポウゲらしき花が咲いていました。
Commented by itsumohappy at 2008-07-29 23:38
cccpcameraさん
こんばんはー。昔の日本の高度成長期の環境破壊を教訓にして
ほしい云々ありましたけど、開発が本格的に進めばさけられませんね。
これまで、四島はあまりにも発展からとり残されて来たのだと思います、
あの道などほんと、先進国だったらありえないです。

日本が大量に消費するカニなどもっと高くてもいいって言う研究者も
いますね。でも消費者はたくさん&安く、を求めるわけですしねぇ
日ロでお互い気をつけていきましょうね、っていうのは何もしないより
はいいですね。


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