2008年 04月 09日

スタインベック&キャパ 『ロシア紀行』

d0007923_21384222.jpgジョン・スタインベック(文)とロバート・キャパ(写真)によるロシア旅行記録。二人の、1947年8月から2ヶ月間にわたるウクライナやグルジアへの旅行記は、ヘラルド・トリビューン紙(スタインベックは同紙にこの企画を持ちかけた)に48年1月から連載された。『ロシア紀行』はその連載をまとめたものである。訳者の解説によると、出版当時、米国では、「見たものを見たとおりに報告しているだけの内容」でどちらかと言えば失敗作、との評価が優勢だったそうだ。

読んだ感想を先に述べれば、特別な大事件も何も起きないけれども、田舎でも都会でも見たままの印象が、率直に語られているからこそ却って興味深かった。スタインベックが、両国の作家の社会的地位や役割の比較分析をしている箇所も面白い。ソ連では作家は人間の魂の建築家(スターリンの言)で、体制を賞賛するものであるが、アメリカで作家が「軽業師のちょっと下かアザラシのちょっと上くらい」の地位なのは、社会の不正を攻撃する存在ゆえなどと述べている。

二人が旅行した時代は、チャーチルの「鉄のカーテン演説」(1946年3月)後の冷戦がまさに始まった頃。キャパがソ連への入国申請を繰り返しても許可が下りなかった一方で、スタインベックはロシア語訳でもベストセラーになった『怒りのぶどう』で親ソ的であると見られたため、ビザがすんなり下りた。スタインベックは、「カメラマンはソ連にもいる」としてキャパの入国を渋るソ連当局を、「ソ連にキャパはいませんから」と説得し、二人の訪ソが実現した。

旅行の目的に関しては、「ソ連について幾千もの言葉が全て実際に行ったことのない人たちに書かれている」ので「写真で裏づけをした、てらいのない純然たる報道の仕事」をするため「アメリカの場合と変わりはないはずの」民衆の私生活を取材するのだと記している。

本書によると、当時のソ連では産業や人口に関する数字の漏洩は軍事情報の漏洩に等しく、知ることのできるのは「対前年比」だけ。また、西側メディアの正規の特派員は、モスクワ地区を出られず、一般人家庭の訪問も許されず、記事は検閲されている状況だった。

スタインベックらは、旅行にあたり公的な資格を得ることは避け、「全ソ連対外文化交流協会」のアレンジで写真撮影の許可を得て、キエフ、スターリングラード、トビリシ(トビリシ郊外にスターリンの生地がある)等を訪問した。そうは言っても「カメラに対する恐怖」で撮影が許されないこともままあり、「ここで2枚の写真を撮るだけで何千と言う言葉でも言い尽くせないものを見せることができるのに」とキャパが嘆き悲しむ部分がある。

戦争の傷跡が深く残るウクライナ(ニューヨークからカンザスまでの広さに相当する地域がことごとく破壊され、当時の米国人口の15%に当たる600万人の民間人が犠牲となった、とある)の農村で、人々が、平和な生活を取り戻すため、将来に希望を持って必死で働く姿が心に残る。

二人は行く先々で歓待を受けているが、いちいちモスクワに戻らなければ地方に行くことができないため、移動にまつわるトラブルにもあれこれ見舞われている。トラブルを起こす「グレムリン」(飛行機のエンジンなどに故障を起こさせる見えない魔物)が大活躍する描写がユーモラス。

スタインベックの、ロシア庶民を見る眼があたたかい。一方で、街中にあるスターリンの巨大な肖像画やクレムリン宮殿の宝物には、権力者の悪趣味を感じとって、辛らつな感想を述べている。

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d0007923_21421635.jpg私が読んだのは、スタインベック全集14(大阪教育図書)。品切れで、図書館ならあるかもしれない。邦訳単行本は1940,50年代のものしかないもよう。

キャパが撮影したフィルムは4,000本近くで、本に掲載された写真は69枚。ソ連出国時、ドイツ人捕虜や病人の写真など一部は取り上げられたが、一般民衆の写真は無事だった。一方、スタインベックのメモは検閲されるどころか聞かれもしなかったとある。

ペーパーバック(右)はあるが、写真の質があまりよくないらしい。
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by itsumohappy | 2008-04-09 22:02 | 文学・本 | Trackback | Comments(2)
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Commented by prncespycckaya at 2008-05-01 23:26
itsumohappyさん、こんばんは。
先日、名古屋市の愛知県図書館というところへ行って本(全集14)の実物を観てきました。明日ちょっとロシアへ行ってきます。また遊びに来ますね。
Commented by itsumohappy at 2008-05-01 23:56
ミーシャさん
こんばんは!ちょっとロシアまで・・ってもうその辺行くノリで
うらやましい。。スモレンスクかな、まだ寒いかなー。
お気をつけて行ってらっしゃいませ。


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