19世紀の詩人・作家ミハイル・レールモントフ(右:1814~1841)の代表作(1840年)。カフカスを舞台に主人公ペチョーリンの生き様を描いたものである。プーシキン「オネーギン」と並び、19世紀ロシア文学に現れた貴族・知識人の一典型である「余計者」を主人公にした文学作品のひとつとされる。
19世紀半ばのロシアでは、デカブリストの乱、各地で起こった農民一揆、ポーランド独立運動などの不穏な動きが続き、ニコライ1世による反動的な政治が行われていた。「余計者」を特徴づける、政府や貴族社会に対する批判的な態度や知的優越感、精神の倦怠といった性格描写は、自由な表現活動を封じ込んだ当時の社会情勢の影響を受けたものである。 『現代の英雄』のペチョーリンは、他人の気持ちを弄ぶことに喜びを見出すような、およそ鼻持ちならない人物である。カフカスで関わりを持つチェルケス人女性や公爵令嬢らとのかけひきは、読んでいると心が寒くなる。主人公には共感できないが、ペチョーリン像を徐々に暴いていくストーリー構成は面白く、一気に読める。本の解説にあるように、主人公の救われない性格描写を通じて、一種の社会批判を行っているととれる。 レールモントフは、父は軍人、母は名門貴族出身で、貴族寄宿学校、モスクワ大学に学んだ。シェークスピア、バイロンらの影響を受け、詩作を始めるも教官とのトラブルから近衛士官候補生学校へ転校し、卒業後、近衛騎兵騎手となった。 崇拝していたプーシキンが決闘で死去した際に書いた詩(『詩人の死』)が評判となり、書き写されてロシア全土に広まったが、その詩に宮中の高官を誹謗した字句があったため、カフカスに転属させられた。しかし、レールモントフにとってかつて療養時に滞在したカフカスは「第二の故郷」であり、詩作の傍ら山地の風景をスケッチし、土地の伝説や民謡の研究も行った。現地での戦闘で武勲を立てたが評価されず、退役も認められず、やがて決闘沙汰に巻き込まれて死んだ。レールモントフは、わざと決闘相手を外して拳銃を撃っていたが、相手に狙い撃ちされた。この事件は謀殺と言われており、レールモントフの死の知らせを聞いたニコライ1世は、「犬には犬死が似合いだ」と嘯いたと伝えられている。 【参考:『ロシアを知る事典』 2004年平凡社】 終焉の地、ピャチゴルスクにあるレールモントフ博物館
by itsumohappy
| 2009-10-31 21:30
| 文学・本
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